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Couple's Short Story 「日焼けの跡」


「ぶら下がる 気持ち半分 女郎花」

カリフォルニアは10月も下旬に入るのに、プールで泳ぎたくなるほどの再びの夏日。
そういえば、いつもハロウィンのかぼちゃ狩り(パンプキンパッチ)に行くときは、暑かった記憶がありますね。
秋はすぐそこ。 行かなきゃすぐ去る。 夏もすぐそこ。 さっきまでそこにあった。 そんな時期ですね。

*女郎花(おみなえし)
秋の七草のひとつ。 山野に生える黄色い清楚な五弁花。初秋の季語

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Couple's Short Story
「日焼けの跡」




前の男と南の島でつけた日焼けの跡が消えた頃、私は新しい男と住み始め

た。


 前の男は特定の相手と付き合わないのがひとつのステイタスだった。女はいるの

に、自分はフリーを貫き通す。私はほとんど中毒のように関係を持った。

 南の島に行った時も、一緒に行く女に私を選んでくれたことも、一週間もの長

い間彼を独占できただけで満足だった。

そもそも彼は、そのまた随分前には正真正銘私の恋人だった。そのさらに前

は、私の通う高校の国語の教師だった。


 在学中から彼は私に気があった。私も彼に気があった。やっかいな関係がそ

こにあった。スキャンダルな関係と紙一重。

 私が在学中に彼はある出版社の新人賞を受賞した。それは当時の私にさざな

みを起こした。私は彼が小説を書いていることすら知らなかった。

 彼は国語の教師であって世間一般に名前の知られるような人物とはかけ離れ

ていたはずだった。それから彼の存在は目立つようになり、私は彼が急に遠く

に行ってしまったかのように感じてしまった。

 新人賞をとったものの、まだ彼は教師に変わりはない。ただ、いつかは学校

の教師という枠から出て行く人だということは漠然と感じていた。

今思うと、あの頃の彼は世間でいう若者だった。まだ20代半ばで、可能性に

満ちていた。当時の私の目には彼は国語教師であって、1学期の次には2学期

になる、3学期になって次の年度になりまた繰り返す、そのサイクルからはず

れて別の職業につくなどと想像もしていなかった。

 彼はこのニュースの前も後も変わることなく、真面目に国語を教えている。

教科書から上げた目が私の視線とぶつかることがなくなったこと意外に変化は

ない。ただ、そんなことは他の誰にも気づかれていなかったことだ。

 そのうちに学校で噂が経った。彼の小説の中の主人公は彼自身で登場する

人物のモデルは校内にいる誰かなんじゃないか、というものだ。

彼はばかばかしい、と言い残し学校を突然やめてしまった。

お願い辞めないで、と十代の小娘に言われたところでどうにかなるはずもな

く、彼は去っていった。

 これが十代の私と二十代の彼の全てだ。どこにも大したものや、もったい

ぶるようなものはない。


 そして私が二十代になって、彼が三十代の時、私はある出版社で働いてい

て、彼に再会した。

 なんてことはない。私は事務の仕事をしていて、そのフロアにある自販機で

コーヒーを買おうとしたところに、作家として打ち合わせに来ていた彼もコー

ヒーを買おうと私の横に立っていたのだ。

 私は隣にいる彼に気づかず、ゴロンと音を立てて取り出し口に落ちてきた缶コー

ヒーをとり、デスクに戻ろうとした。その時に懐かしい空気が鼻腔を掠めた気がし

た。彼だった。

 彼の記憶の中で、教師時代がどんな位置を占めているのかは分からない。も

しかすると憶測から勝手な噂を立てられ、居心地の悪い思いもして、そのと

きの生徒などには会いたくもなかったかもしれない。だが、再会したときの彼

は笑顔だった。

 ばかばかしい、と学校を去ったとは思えないような明るさで、「よっ、元

気?」とつい先週も会っていたかのような乗りだった。

「あ・・せん・・」

先生と言おうとして、それは私の中で教師の意味の先生だから、言いかけて止

めた。そんなこと気にも留めていないかのように、彼はぺらっとしゃべり続

けた。それがどんな内容だったのかは思い出せない。ただ、約束をさせられた。

自分はこれからどこそこに行って、何の用事を済ませ、その後は時間が空く、

その頃は君も仕事が終わっているのだろうから、ちょうど良いだろう。自分は

今夜は予定が入っていないのが珍しいぐらいで、君と再会したのも何かの縁だ

から、どこどこのなになにで、落ち合おう。

私は彼が目の前にいるだけで、信じられない思いから仮に予定があったとしてもこ

れを逃してはいけない気がした。彼の指定した時間に彼の指定した小料理屋へ行く

と、彼は既にほろ酔いだった。

 着物を着た女将が彼に勺をしていた。顔はつるんとした色白で面長のところ

がゆで卵のようだった。そのつるんとした顔が笑うと目じりに無数の皺が走

る。40代後半か50代かもっとなのか、歳の見分けが難しい女将だった。

「あら、だぁれ?」

 やわらかいイントネーションで女将が聞いた。

「元教え子」と彼が言い、ここに座れ、と隣の席を勧める。

何も聞かずに女将が私のまえに冷やした小ぶりのグラスを置くと、彼が、そこ

にビールを注いだ。

「へぇ、教え子さん? そや、きよちゃん、先生しはったんやもんねぇ? 

ま、今もせんせやけど」

「泣かず飛ばずですよ。教師に戻ろうかなぁ」

「何いうてはんの」

 私はビールに手も口もつけず、自分のかばんをひざに置き、カウンターの椅

子に浅く腰をかけたままだった。

「あ、こっちがさきやったわ。はい、おしぼり」

 熱いおしぼりで手を拭くと、少し固くなった気持ちがほぐれた。

「先生とどんな風に話していたか忘れちゃった」

「同じように振舞わなくてもいいでしょ、別に。今は立場違うしね。ところ

で、あそこで何してるの?」

「事務」

「事務、ね~。そういう仕事やる感じだったっけ? で、おもしろい?」

「まぁ、先生のやっていることとは比べ物にならないだろうけど」

「先生、じゃなくていいよ」

 彼は『やませきよひこ』と言った。女将のようにきよちゃん、と呼べるはず

もなく、やませさんと呼ぶのも居心地が悪い、あなたは、なんて具合にも行か

ないが、呼び名をつけずに聞きたいことを聞いた。

「私を見て、びっくりしなかったの?」

「したよ。した、した。大いにしたね。だから、今日を逃したらもうこのチャ

ンスはないと思って、誘ったんだよ」

「今日を逃したらといっても、あの出版社に私ずっといるし」

「そりゃ良かった。俺はそこの仕事切られたばっかの無職」

すぐに転がり込める場所を探していた彼はその日から彼は私のアパートに転

がり込み、同居人兼恋人になった。

 後になって私がもしあの小料理屋に姿を現さなかったら、ゆでたまご顔の女

将のところに転がり込むつもりだったと聞いて興ざめしたが、彼を追い出す気

にもなれず3年間も一緒にいた。

 私たちは狭いアパートで語り合い、笑いあい、けんかしあい、愛し合い、空

気のようになっていた。刺激のなかに安らぎがあった。私は彼のことをきよち

ゃん、と呼べるようになっていた。

 きよちゃんは書くことをあきらめず、そんな時間に誰がそんなド ラマを聞くのですか? 

というような、ラジオドラマのシナリオを書いたり、カ ルチャーセンターのシナリオ教室で

教えたりもするようになった。

その時の肩書きに新人賞を過去に受賞していることは役に立ったし、誰も聞い

てないにしても、ラジオドラマのシナリオのレギュラーを持っていることも助けになった。

そんなことをしているうちに、これまた、そんな時間に誰がそんな 朗読を聞くのですか? 

というような自分の短い小説を朗読するコーナーをもらい、それが数名のファンを生み、

その数名のファンの中に、あるシンガ ーソングライターがいて、自分の書く詩のイメージが

欲しいから、なんでもよいから誰も読んだことのないストーリーを自分だけのために書いて

と依頼をしてきた。 きよちゃんはそれを断り、それなら始めから俺が詩を書く、と言い、以前

は社会派だったくせに、せつない詩をあるシンガーソングライターのために書

き上げ、きよちゃんの書いた曲はそのシンガーソングライターの初めてのヒッ

トになった。

 急激にそれは起こったのかと思ったが、そういうわけはなく、やけにゆるや

かなカーブを描きながら、きよちゃんは才能を咲かしはじめた。

 もともと咲いていたわけだが、その花がしおれて、落ちて、またつぼみをつ

けるまでは長い。きよちゃんは大きな花を咲かせた。花を咲かせると、きよち

ゃんは広い意味でライターとなり、ちょっとした有名人になって、シンガーソ

ングライターの元に移っていった。

 そこまでが私と彼の恋人時代だった。

実際、きよちゃんとそのシンガーソングライターとは2ヶ月ともたなかった。

私の元に帰ってくるとたかをくくったが、戻ることより新しいものを追い求め

続けることをきよちゃんは選んだ。知りたくなくても、彼の派手な私生活の噂

は耳に入ってくる。私はあの狭いアパートで3年間も彼を独り占めしていたこ

とが幻のように思えてきた。

 そのきよちゃんと二十代最後の日に再会した。

都心の美術館で、あいまいな色の絵を眺めている時だった。見間違うはずもな

い横顔だった。隣の絵を見ていた彼が私の視線に気が付き、こちらを向く。私

だと気づいて、少しびっくりしたようだけど、数年前にしたように、先週会っ

ていたかのような気軽さで、私に話しかけた。

美術館ではゆっくり話せないから、俺は俺のペースでこの美術展を見ていく、

だから君もそうするといい。この美術館を出て、左にいくと信号があって、そ

こを右に曲がって坂を上ると立ち飲みやがあるからそこにしよう。

私はそれが最適な提案に思え、それに従った。立ち飲み屋で彼はコロナを飲ん

でいた。私も同じものを頼んだ。

「今もあの出版社?」 

 挨拶もなく、彼がそう言った。私は「そう」とだけ言った。

 彼は動き続けている。私は同じ出版社の同じ部署で、同じ仕事を、同じ同僚

たちとし続け、彼も住んでいたことのあるあの同じアパートに同じようなもの

を食べながら、同じようなテレビを見ながら、暮らしている。

「男いるの?」

「うん」

 私は嘘をついた。嘘でもいいから自分に変化が欲しかった。

「紹介しなよ」

「何のために?」

「理由なんて必要ないだろ? 俺が愛した女の彼氏を見ておきたいってだけ」

「会わせたくないわ」

「いないからだろ?」

 カっと熱くなり、私はきよちゃんの手からコロナの瓶を奪い、飲み干した。

彼がカウンターに行き、コロナを2本手に戻ってきた。

 その日から私ときよちゃんは度々会うようになった。

恋人に戻ったわけではない。彼は私にとって、ゆるやかに近くを飛んでいるの

に捕まえられない蝶のように、共感し合っても、体を重ね合わせも遠い存在だ った。

 彼が私の頬を包み込むのが好きだった。おでこに優しくキスしてくれるのが

好きだった。それをするときに、教師だったときのことを思い出す、ときよち

ゃんは言っていた。私と彼だけに分かるあの切ない気持ちだった。

度々会う関係というのが何人いるのか、ということすら聞けずにいた時だったか

ら、きよちゃんに仕事という名目がついていたとしても旅行に行こう、と誘われた

時は驚いた。きよちゃんはそこに行かないと筆が進まないと言う、それも一人では

嫌だと言う。取材旅行と称して、出版社に旅費を出させ、どこに発表するか分から

ない、小説を書き進めると言う。

「どうして私を誘うの?」

 思わずそう聞いた。

「お前と行きたいから行くんだよ。俺は何度も行ったことのある所だけど

お前は初めてだろう?」

 『お前と』という部分を強調した。

 きよちゃんは特定の相手を作らない主義だった。それなりに有名になってい

て、メディアに顔を出していたのもあって、私は一緒に歩く時、目立たないよ

うにしてくれ、とよく言われた。彼と会っていても、リラックスしきれないと

ころも、彼と二人っきりになっても、彼の心は私だけに向いていないことに侘

しさを感じるところも私を鬱にさせた。そこでいきなり、南の島に行こう、だ。

 私の気持ちは弾んだ。何にも気兼ねすることなく開放的になれる。

 南の島で私はきよちゃんにいっぱい甘えた。同棲していたときよりもずっ

とずっと恋人らしく、街でもホテルでもビーチでもタクシーの中でも

手をつなぎ、キスを浴びせ合った。彼が私の焼けた肌を褒めた。日本にいる白

くなることしか考えない女たちよりもずっとずっと健康的で魅力的でそそられ

ると褒めた。

 私は愛された肌のまま帰国した。

スーツケースを全部空にして、荷物を元の場所に散らばしてしまうとだんだ

ん余韻は薄れていってしまうが、服の下には愛した男と癒されつくした1週間

の跡がある。

 きよちゃんとの関係が好転するかは期待できない。

好転どころか、またきよちゃんは私と行った南の島に別の女と旅立った。私は急に

日焼けの跡が疎ましく感じてきた。

 今度の取材は編集者付きでないとさすがにまずい、というのが別の女を連れ

て行った理由。その女は実際編集者だし、他に同行者がいたのかいないのかは

踏み込めない質問。

 私は怒りなのか悲しみなのか分からない消沈に悩まされた。

 何日間行く予定にしていたのかも分からない。連絡がこない。それはこっぴ

どく振られることより身に沁みた。

 私もきよちゃんも三十代だった。


 彼に今流れている時間は、私に流れている時間の何千分の一程度のものだろ う。

 私がひどく長く感じて、待ちぼうけでいることも、彼にとっては、連絡して

いないことすら気が付いていないほど短い時間かもしれない。

私はきよちゃん以外の何かを見つけないと息さえもできなくなるような強迫観

念に駆られた。

 きよちゃんのことが忘れられないまま、日焼けの後はだんだん薄れていっ

た。消えないものなどないのだと知った。

私はきよちゃんに指定されていった小料理屋に行った。女将は相変わらず、

ゆで卵のような顔をしていた。

 私はカウンターの席に浅く腰掛けてビールを頼んだ。ビールをついでから、

女将は思い出したように、おしぼりをくれた。そして私に初めてか聞いて、私

は黙って頷いた。

 ビールグラスに口をつけただけで、私は彼と二度目に再会した美術館に行っ た。

 あいまいな色の絵はもうなかった。あいまいな色の絵がない代わりに、遠い

昔の遠いどこかでポーズをとる少女の絵があった。書いている画家とその少女

は愛し合っていたという。およそ100年前の恋が壁にかかっている。それを

たくさんの人が見て通る。私は私のペースで美術鑑賞をし、再会した後に彼が

指定した立ち飲み屋へ行って、コロナを1本飲んだ。

店を出て、一瞬帰り道が分からなくなった。

自分を見失ってしまったかのように次から次へと大粒の涙がポタポタと頬をつ

たった。彼が何度となく包んでくれた頬を洗い流すかのように涙は流れていっ た。

 私が三十代、彼が四十代の今、私たちの関係は固まったきりになった。

 新しい男と私はまた南の島へ行く。そしてまた肌を焼いて、愛された証拠の

日焼けの跡をつけるだろう。いつか、消えるのだろうけど、またいくらでも南

の島へ行けばいい。




「日焼けの跡」   真名 耀子


hawaii




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Tag:小説Couple’sShortStory

Couple's Short Story 「休日マガジン」

「惜しむ夏 逃した魚を 追わぬ猫」

8月もいよいよあと二日で終わってしまいます。
暑かったのを恨めしく感じたこともなぜか、夏の終わりには「あ~ぁ、もう終わっちゃう。。。」と心のどこかで
終わらないで、という感情が沸き起こります。
去ってほしいのか、去らないでほしいのか、ひりひりした思い出を残すのも夏ですね。


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Couple's Short Story
「休日マガジン」


 
 昨夜の豪雨がうそのように雲ひとつない晴れ渡った日曜の朝。しずくは、パ

ジャマのままキッチンからベランダ出て伸びをひとつしてからラジオ体操よろ

しく、肩幅に足を開き、左手を腰に当て伸ばした右手を左に大きく倒して脇を

伸ばした。少し反動をつけて5回。反対側も鏡映しのように同じことを繰り返

す。そして両手を腰にあてて今度は後ろに反るのをぐぐーっと10秒間。体を起

して大きく深呼吸を3回。それだけやってキッチンにもどって、2枚入るトース

ターにトーストを1枚入れて焼く。

 この朝ののびのび体操は二人で手を握ってひっぱりあいながらやっていたの

に、今は一人。トースターも両サイドフル稼働だったのに、今は片方だけが変

化なくトースト焼きを続けるもののもう片方は無駄な燃力をむなしく使うだ

け。

 朝食を食べているテーブルの向い側にはだれも座らない椅子の背があって、

その向こうにさっき体操をしていたときと同じ、ベランダからの景色。

 同棲していたかなめが出て行ったのは2年前。しずくはそれから外から見た

らなんの変哲も問題もないようだけど、ずっと同じ歌の最後から2小節目まで

は繰り返し、繰り返し流しているような生活を送っている。

 最後の1小節目の寸前で不自然にまた最初に戻ってはまた尻切れトンボのま

んまを繰り返す。

「洗濯でもするかぁ」

 月並みなことを思って、パンくずだけになった皿を片づけて、マグカップに

1/3残っている冷めたコーヒーを啜りながら洗濯機を回す。洗濯機を回してい

る間に古新聞を床に広げて、足の爪を切った。

 洗濯機が回る音、パチンパチンと爪が切り落とされていく音、つけっぱなし

のテレビからの笑い声。先週も一年前も、二年前もそのもっと前からも変わら

ない日曜日の朝の音。

 
 爪を切りながら、足の下にある古新聞の記事をまるで新しいニュースかのよ

うに読んでいるとき、一か所の囲み記事にある活字の塊にアンテナが反応し

た。

「うそ、かなめ?」

そう言って目を向けている先は、しずくの爪が切り落とされた下にある連載中

のコラムだった。人気ブログがそのまま記事になったもののようだ。




『すすめ健康志向』Vol.7

 マンションにしか住んだことのない僕の憧れは、庭の物干し竿に干された洗濯物の影に隠れながら、毎朝ラジオ体操をすること。洗濯干しが終わった奥さんがつっかけを履いたまま縁側で微笑ましそうに僕の体操を眺めている。そして、ラジオ体操の伸びの部分になったら、僕は縁側に腰かけた奥さんを立たせて両手をつなぎ合い、ふたりでストレッチをするのだ。実に健康的な憧れだと思う。これは夢とは呼ばない。憧れだ。そもそも夢と憧れとの違いは・・・



 と続いている。筆者は〈休日マガジン〉。なんだか何を狙っているのか分か

らないペンネームだ。かなめの「か」の字も出てこないが、これはかなめが同

棲中によく言っていた戯言で、物干しざおのある庭ではできない代わりに、せ

めてベランダでやろうと二人でのびのび体操を実行してきたのであった。

 だから何? というこの文章が新聞に掲載されるほどの人気の原因ではない

ようで、〈休日マガジン〉はおいしく満腹になれるダイエット食のレシピをブ

ログに写真付きで載せているところが、受けているようなのであった。

もちろん新聞にもレシピが写真付きで載っている。この日のレシピは、かぼち

ゃの煮物。なんてことないじゃないか? と思ったら砂糖にはノンカロリー甘

味料が使われ、そのうえにヨーグルトソースがかかっていた。

「まずそうだ・・・」

 としずくは思ったが、かなめが無類のヨーグルト好きだったのを思い出し

た。

 たまたま爪切りの下敷きにした新聞の日付は、ちょうど1か月前。このコラ

ムが掲載されているのは、隔週の日曜日らしい。Vol.7ということは、4か月

前から掲載されていたことになる。古新聞は1か月以上とっていないが、Vol.

8とだったらあるはずだ。2週間前の新聞を探し始めた。



『すすめ健康志向』Vol.8
僕の場合体調が悪い時はその症状が腹痛だろうと頭痛だろうと疲労感だろうと、とりあえず熱を計ってみる。僕の平熱は35.98度。これよりも0.01でも高かったり低かったりしたら慌てることにしている。だが、平熱の35.98度だったらなんだか安心して、体調が悪いのも気のせいだという気がしてくる。このときのポイントは婦人体温計を使うこと。婦人体温計だと小数点第二位まで測れるから・・・・



 と続いている。そうだった。かなめの平熱は35.98度。そしていつも大

袈裟なんだよな~、と思っていたが乗り物酔いでも二日酔いでも、寝起きが悪

かったときもすぐに熱を測る。測るときはいつもしずくの婦人体温計を使って

いた。

「あれ? 婦人体温計どうしたっけ」

 いつから見かけていないか覚えていないが、1年以上見かけていないような

気がする。しずくは基礎体温表をつけるどころか、風邪のときだって滅多に熱

を計らない。熱っぽいと思ったら病院に行くまでだし、病院に行ったら必ず待

合室で熱を計りながら待たされるからだ。

 救急箱を見てもペン立てを見ても、洗面台を見ても、キッチンの箸にまぎれ

ていないか見てもどこにもなかった。

「やっぱ〈休日マガジン〉はかなめなのかな」

 確信に近くなってくる。

 そもそもかなめとの同棲は、かなめがアパートの家賃を滞納しているうえ

に、居酒屋のアルバイトも店長とうまが合わずに喧嘩してクビになったところ

を、その居酒屋に常連だったしずくのマンションに転がり込んだのが最初だっ

た。

 一言でいうと几帳面なだらしのないやつだった。転がり込んだときは、1か

月以内にいなくなると思っていたが、居心地よさそうに居座りつき、家事を一

手にひきうけることを条件にしずくが生活の面倒を見てやった。が、半年たっ

たある朝メモをテーブルに残し、こつぜんと消えていた。

“お世話になりました。高菜チャーハン作ったの冷蔵庫にあります”

 どういうわけだか分からなかったが“お世話になりました”の言葉に別れ以

外の何も隠されてはいなかった。あの高菜チャーハンはしょっからい涙の味だ

った。最後の一粒まで食べてしまったらもう二度とこの味に出会えることはな

いのだろうと思うと、胸が詰まった。あの日から一度も高菜チャーハンはおろ

か、チャーハンを食べていない。捨て猫のようなかなめとの半年間の同棲の末

の傷は2年間たっても癒えることはなかった。


「あ、そうだ。今日は、Vol.9が掲載されているはずだ」

 しずくは掲載の隔週にあたるのが今日だと気づき、パジャマにカーデガンを

はおってマンションの住人の誰にも会わないことを願いながらダッシュでポス

トまで行き折込チラシがどっさりはさまれた新聞を胸に抱えながら部屋に戻

り、一目散に掲載ページを開いた。




『すすめ健康志向』Vol.9
 僕のブログを見てくれた人が僕のレシピで作った料理の感想をくれたので、ここでどんな感想をもらったのか書いてみます。
・なにこれ? と思ったら案外おいしかった。
・ダイエットになるの? と思ったら3kgやせた!すごい!
・めんどくさそう・・・と思ったら10分もかからなかった。結構簡単なんですね。
 などなど。こんな風な「思ったら違かった系」の感想ばかり毎日くる。僕自身ももしかしたら「思ったら違かった系」の人間なのかもしれないとふと思った。奥さんにもよくそう言われる・・・・
 

 と続いている。

〈奥さんにもよくそう言われる〉と印字された部分で思考がストップした。

 Vol.7で〈奥さん〉が出てきたときはそんな夫婦生活をいつか誰かと送りた

いという憧れで、〈妻〉という存在の〈奥さん〉は匂わなかったからまったく

気にしなかったが、ここに出てきた〈奥さんにもよくそう言われる〉は、紛れ

もなく〈妻〉がいるということだ。

 かなめに奥さんなんているの? 捨て猫みたいだったかなめに?

 もう2年も前に出て行ったのに、今更ながらに動揺が走る。目眩さえ覚え

た。

 いつそんなことになったんだろう。やっぱりどこかに転がり込んだの? 私

のところを出て行ってすぐ? それとも最近?

 しずくの一時停止した思考が再生をスタートすると、今度は止まらなかっ

た。止まらないどころか、この2年間繰り返し繰り返し最後から2小節目で振

り出しに戻ってしまっていた歌の最後の1小節まで流れきってしまったかのよ

うだった。ジャーン・・・最後の和音のエコーが耳に残り、その後は静寂がし

ずくの心を包み込んだ。

 こんな平和な台風の去った日曜日に〈休日マガジン〉は大変なものを落とし

て行ってくれた。コラムの最後に、休日マガジンのブログはこちらです、とあ

りURLが記されていた。

 しずくは、ホコリをかぶったノートパソコンを開けて、電源を入れ、画面が

ゆっくりと変わるのを涙目に待った。

URLを一字一字確かめながら打ち『すすめ健康志向』のトップページが現れ

る。プロフィールのところを見ると生年月日などはなく、「料理好きのひもで

したが、めでたく主夫になりました。ブログが○○新聞に掲載されています」

とあった。

 プロフィール写真は料理をしている後姿で、顔は見えない。

「ちがう」

 しずくは、その写真で別人だと確信した。しずくが見てきたかなめの料理を

する後姿とは別人だった。背格好はそっくりだが、顔を見なくてもわかる。

かなめは両理をするときはいつも長めの髪を無造作にうしろで結わえていた

し、エプロンなんかつけなかった。この写真に写っている〈休日マガジン〉は

短い髪で、まるで新妻がつけるような小花模様のエプロンをつけている。

「ちがう、ちがうんだ。ちがかかった」

 しずくは言い聞かせた。言い聞かせたとたんにしずくは、かなめと別人なの

にこんなに似ている〈休日マガジン〉に親近感を持ち『すすめ健康志向』をお

気に入りに登録した。

「これでかなめにいつも会っている気分になれる♪」

 急に元気になり、最新日記に書かれたレシピの材料をメモする。メニューは

高菜チャーハンだった。


「休日マガジン」     真名 耀子

Mocha


Tag:Couple’sShortStory小説

再会 New and Old Friends

二週間の里帰り期間で楽しみにしていた事がお友達との再会!

限られた日程で予定を合わせてもらえて感謝です!

カリフォルニアでお着物好きな方々のグループに参加させていただいていますが、本帰国された皆様ともお会い出来ました~!
浴衣で再会
浴衣でお出かけ日ために企画してくれたのが、プラネタリア。
これ通常のプラネタリウムと趣向が違っていました!
ギリシャ神話の怖い話と怖い絵の解説をするのですが、解説は中野京子。
MCはミッツマングローブ
 誰もが見たことがある有名な絵画。見る目がちょっと変わります。
美術好きな方は楽しめると思います!

その後に銀座まで歩いて穴子料理のコースを個室で堪能しました。
これも季節の味!
こういうのをささっと寸前に予約してくれちゃうお友達。かっこ良いね! アレンジありがとう!
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会社員時代のお友達とは日本産のワインを出してくれるレストラン(ビストロという方が近いかな?)へ。
ここは3年前も同じメンバーで来たっけな~。
私にとって勤めてた時期の自分と今はそんなに変わらないつもりでいるけれど、20年ほど経っている!
長いお付き合いなのですよね~
ありがたい事です。
記念に3年前と同じ並びの三人の写真を撮りました。

この写真は一本目の泡。日本のワイン、やりますね~
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私の両親とお歳が近いお友達ご夫婦がいます。
でも気持ちはずーっとお若くて趣味の分野でとっても楽しくお付き合いさせていただいています!
そのご夫婦の周りには楽しい方がいーっぱい。 ご縁で知り合った素敵な人生の先輩ご夫婦。今もFBやインスタでも繋がっています 日本にいるときは、みなさんと一緒に展示会などさせていただき楽しい経験をさせていただきました!
この二組のご夫婦はミュージシャンのEさんが引き合わせてくれたみなさん。超多忙なEさんも偶然にこの一日だけが空いてるって嬉しいミラクル
私を含む6人で中華料理の円卓を囲んだ嬉しいランチ。
一緒にいてホっとするみなさん。集まれるだけで幸せでした。

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NYにいる友達も同じ時期に里帰りしていたので、東京にいる共通のお友達と一緒に会ってきました!
アメリカでもなかなか会えないから、貴重な時間!
同じ世代の三人。話題もそれなりに変わってきたね~。でも若い時から知っていて一緒に年が取れる友達がいるっていいことだ!
今度はどこで再会できるか、楽しみ カリフォルニアにも来てほしいな~

日本に来たらこれも食べたい。洋食のハンバーグとドリア! 







高校時代に父親の転勤でアメリカにいた時期がありました。
そのときに、大変お世話になった当時駐在員だったご夫婦ともお会い出来ました!
ずっと年賀状で連絡を取り合っておりましたが、久しぶりのご対面!
でもお会いすると緊張はなく、子供だった頃のようにあんなことがあった、こんなことがあった、と話してしまいます。
考えてみたら、私が高校時代って、お二人も新婚さんで30歳そこそこだったはず。
30歳って今思うとよくよく分かる。まだまだお若いですよねー。そんなお二人に大変大変お世話かけました!
御恩返し。。。なかなかできておりませんが、このご縁がずっと続いていきますように。






今回は再会でいただいたお食事写真で綴ってみました


Tag:日本里帰りアメリカ生活